税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。
本記事は中小企業の経理担当者向けに、立替金の基本から税務(法人税/消費税・インボイス)、仕訳、入金消込、自動化、社内ルールまでを実務目線で整理します。
立替金=他人負担の一時肩代わり(回収前提の債権)と捉え、「今日から運用に落とせる判断軸と手順」を示します。
属人化や月末業務の集中を抑え、経理負担を軽減できる組織運用の参考としてご活用ください。

立替金は「本来は相手が負担すべき支出」を会社が先に支払い、後から清算する前提で発生する金銭債権です。費用ではなく流動資産に計上し、回収や相殺が済んだ時点で消し込むのが原則です。
本章では、定義の芯と実務上の役割、そして資産計上の理由を先に押さえ、後続の税務・仕訳・入金消込の判断がぶれない土台を作ります。
立替金は「回収する意思と根拠が明確な一時的肩代わり」です。典型例は、取引先の会場費や共通費を代表して支払った場合、従業員の旅費・交際費等を会社カードで立て替えた場合などです。
共通点は、負担主体が相手方であること、精算期日と金額が特定できること、証憑で経緯を説明できることにあります。業務上の役割は二つあります。
第一に、プロジェクト進行の「先出し」を可能にする調整弁としての役割。第二に、請求・支払・回収のタイムラグを帳簿上で整える接着剤としての役割です。
したがって発生時の記録だけでなく、回収までの運用設計(期日・責任・書類)を同時に整えることが不可欠になります。
立替金は後で返してもらう権利=金銭債権のため、資産に計上します。
仕訳は、発生時は「立替金/現預金」、回収時は「現預金(または売掛金)/立替金」が基本形になります。長期に回収されないと実質が貸付に近づき、科目の振替や利息認定の検討が必要になります。
| タイミング | 借方科目 | 貸方科目 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 発生時 | 立替金 | 現預金 | 人の費用を立替払いしたとき |
| 回収時 | 現預金(または売掛金) | 立替金 | 立替金を返済してもらったとき |
そのため、「いつまでに回収するのか」という社内基準をあらかじめ定め、滞留の兆候を早期に把握し、回収不能を未然に防ぐことが実務上の要点です。

立替金は原則として費用ではありません。相手負担の支出を一時的に肩代わりしているに過ぎないからです。
費用化されるのは自社負担であることが確定した場合、または立替金が回収不能になり、貸倒等の要件を満たした場合に限られます。消費税では、実費の立替を明確に区分し、立替であることが書類で示されていれば不課税として扱える余地があります。
さらに、インボイス制度では立替金精算書などの組み合わせで保存要件を満たすという考え方が整理されています。
本章では、この三つの軸を押さえます。
発生時は資産、回収時に消し込むという原則は動きません。費用化の道は二つだけです。
第一に、実質が最初から自社の費用であったと判明した時。第二に、相手の破産確定など客観的事実により回収不能となり、貸倒として損金算入の要件を満たした時です。
実務上の判断を安定させるには、立替の目的・負担主体・回収期限を精算書に明記し、承認時点で確認する体制を整えること、さらに滞留基準を明文化しておくことが有効です。
消費税の判断は、「何を立て替えたのか」「誰の仕入れなのか」を書類で説明できるかに尽きます。
税金や公的手数料など実費の立替は、請求書上で区分し、立替である旨が明らかな場合、課税の対象から外す整理が可能です。
インボイス制度下では、他社宛の適格請求書の写しだけでは足りない場面があり、立替金精算書と組み合わせて保存することで、自社の課税仕入れとしての控除要件を満たす実務が一般化しています。

立替金の仕訳自体はシンプルですが、証憑と期日管理が伴わないと途端に崩れます。
基本は「発生→回収(または相殺)→滞留監視」の三段運用です。
各段階で必要な書類と確認事項をあらかじめ決め、承認フローに組み込むことで、月次・四半期決算のスピードと正確性が噛み合います。
基本形は一行です。取引先に代わって費用を払ったら「借方 立替金/貸方 現預金」とし、従業員の経費を会社カードで立て替えたなら「借方 立替金(従業員)/貸方 未払金(カード)」とします。
いずれも、誰の負担か、何に対する立替か、金額と税区分、回収期限を精算書や会計の補助項目に記録し、領収書・請求書と紐づけます。ここで検索キー(請求番号、プロジェクト、担当者等)を入れておくと、後工程の入金消込が安定します。
回収時は「借方 現預金/貸方 立替金」。売掛金と相殺するなら「借方 売掛金/貸方 立替金」とし、相殺通知などの証憑を残します。
回収が長期化し、実質が貸付に近づいたと判断される場合は「借方 貸付金/貸方 立替金」への振替を検討します。以後は利息認定の要否や回収方針を文書で定め、定期レビューの対象にします。
貸倒や引当の判断は、社内規程と税務要件を照合しながら段階的に進めます。
入金消込は、請求データと銀行明細を同じ土俵に並べ、誰から・いくら・どの取引に対する入金かを確定する作業です。
理想は「一致は自動、例外だけ人が判断」です。
本章では、基本フローと典型的なミスの芽を要点だけ押さえ、続く「立替金精算書と証憑の整え方」で、必要書類と記載ポイントを確認します。
名義不一致は、社名の表記ゆらぎ、グループ会社名義、担当者個人名義の振込などが原因です。
バーチャル口座で顧客や案件ごとに番号を割り当てると、名寄せ処理が安定し、名義のゆらぎによる誤消込を防止できます。
期日遅延は、期ズレ候補の提示や許容範囲の設定で誤消込を抑制できます。
合算・分割・手数料差引は、差額の自動按分、複数明細の束ね、差引手数料のルール化を先に決めておくことが有効です。

立替金の運用は、書類が8割です。誰の負担を、何に対して、いくら、いつまでに回収するのか。
これらを精算書と裏付け書類で一枚に収め、電子で探せる状態にしておくと、仕訳・消込・税務が一気に安定します。
この章では、精算書の必須項目とNG、パターン別の書類セット、電子保存の実務を順に整理します。
精算書は「負担主体」と「回収前提」を示す証拠能力が最重要です。
少なくとも以下の8点を記載します。
NG例は、金額が「概算」、費目が「雑費」、回収期限が「随時」など曖昧語が残る状態、他社分と自社分の区分が混在している状態、税区分(課税/不課税)が未記入の状態です。
記載は簡潔にし、主語を明確に示し、
「A社負担の会場費◯◯ホール利用料(発生日4/10)10,000円を当社が立替。回収期限5/31、請求番号INV-1234。」
のように、誰の何に対する立替かが一読で分かるようにします。
取引先立替では、相手先名・契約/発注書・当社支払の証憑(領収書/請求書/明細)・精算書・相手への請求書(または相殺通知)を1セットにします。
複数費目が混在する場合は、自社分/相手分、課税/実費(不課税)を精算書内で行分けし、合計が元証憑に一致するかを承認段階で確認します。
従業員立替では、旅費規程・申請書・領収書・カード明細・精算書を紐づけ、部門/プロジェクト/請求番号など後工程で検索するキーを精算書に反映します。給与天引きで相殺しない場合は回収期限を明示します。
役員立替は長期放置が禁物です。3か月点検・6か月判定のルールを精算書に自動表示し、6か月超は総務・経理・法務の三者承認に引き上げる運用にすると、貸付や給与認定の芽を早期に摘めます。
電子で授受した証憑は電子のまま保存が原則です。
真実性・可視性・検索性を満たすため、ファイル名やメタ情報に相手先・日付・金額・請求番号を持たせ、精算書と元証憑を相互リンクできる状態にします。
運用上の要点は次の三つです。
の三点です。これで、入金消込の照合・仕訳の証憑突合・税務/監査の説明まで一本化できます。
「書類・期日・責任」を仕組みに落とし込めば、立替金は自然に回ります。
まず、電子帳簿保存法に適合した証憑運用を土台にします。
続いて、回収期限の明記とアラート、承認・権限・監査ログを一体で設計します。これだけで、税務調査や監査の説明可能性が格段に高まります。
メールやクラウドで授受したデータは電子取引に該当し、電子のまま、真実性・可視性・検索性を満たす形で保存するのが原則です。
立替の場面では、立替金精算書と請求書等を組み合わせて保存し、誰の仕入れかを明らかにします。運用規程には、保存場所、権限、改ざん防止、検索キーの付与を具体的に書き込みます。
発生時に回収期限を入力し、3か月で注意喚起、6か月で審査という二段階ルールを月次で運用します。
これにより未消込一覧の定点観測、相殺通知の書面化、例外処理の文書化と承認までを一連の流れとして標準化します。入金消込システムを併用するなら、監査ログの取得とバーチャル口座の活用を前提とすることで、属人化を抑えながら回収スピードを高められます。

最後にもう一度おさらいです。
立替金は、相手負担の支出を一時的に肩代わりし、後日に精算する前提の金銭債権です。
発生時は費用ではなく流動資産に計上し、回収・相殺で消し込みます。
税務は「区分を明確に・書類を確実に」が基本。
仕訳は「発生→回収→滞留監視」を徹底し、運用は「3か月で点検・6か月で判定」を基準化します。入金消込は自動化を前提にし、例外だけ人が判断する体制を構築することが必要です。
保存様式は電子保存と監査ログまで整え、属人化と月末集中を着実に解消していきましょう。
監修

税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。