税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。
ファクタリングの手数料相場は1~20%程度と言われています。しかし、なぜこれほど幅があるのでしょうか?また、手数料をできるだけ安く抑えるためには、どのような工夫をすれば良いのでしょうか?
本記事では、ファクタリングの仕組みや手数料の相場、手数料を安くする具体的な方法、経理処理や税務上の扱いも含めて押さえておくべきポイントなどを詳しく解説します。
目次
2社間ファクタリングは、売掛先に通知せずにファクタリング会社と自社の2社だけで行う契約方式です。
一般的に「資金調達のスピードが速く、手続きが簡単」というメリットがある反面、ファクタリング会社から見れば「売掛金の回収リスクが高い」と判断されやすいため、手数料が高めになりやすい傾向があります。
一般的な相場としては、10~20%程度というケースが多いです。
ただし、売掛先の信用度が高い場合には、10%以下で契約できることもあります。逆に、取引実績が乏しい場合や、売掛先の信用状況に不安がある場合などは、20%を超えることも稀にあります。
資金繰りがひっ迫していて「とにかく早く現金化したい」場合には、やむを得ず2社間ファクタリングを選択することが多いです。少し時間の余裕がある場合は3社間ファクタリングを検討するなど、手数料を抑える工夫が可能になります。
3社間ファクタリングは、ファクタリング会社・ファクタリング契約企業・売掛先の3社間で契約を結ぶ方式です。
売掛先がファクタリング契約を認知した上で、支払いをファクタリング会社へ直接行う流れになります。そのためファクタリング会社にとってリスクが低いとされ、手数料率も比較的低めに設定される傾向があります。
・3社間ファクタリングは、売掛先に「ファクタリングを利用すること」を通知し、納得してもらわないと成立しません。
・売掛先によっては「資金繰りが厳しいのではないか」と勘繰られるリスクもあるため、営業上の関係に影響を与えないよう、事前にしっかり説明を行う必要があります。
・売掛先との合意を取り付けるプロセスが発生するため、2社間ファクタリングに比べると契約が完了するまでの時間がやや長めになるケースが一般的です。
ファクタリングには大きく分けて「買取型ファクタリング」と「保証型ファクタリング」の2種類があります。
買取型では、売掛金をファクタリング会社に“売却”し、資金を先に受け取る仕組みです。
保証型では、売掛金の貸し倒れに備えて、ファクタリング会社が“保証”する形を取り、必要に応じて立替払いを行います(資金調達とは少し目的が異なります)。
・一般的なファクタリングというと、この買取型を指すケースが多いです。
・2社間・3社間のいずれかの方式を選択し、先ほど述べたように1~20%程度の手数料が発生します。
・売掛金が貸し倒れになった場合にファクタリング会社が保証する“保険”のようなイメージです。
・保証型は資金化ではなくリスクヘッジが主目的のため、通常は毎月あるいは年単位で保証料を支払う方式となります。
・保証の範囲や売掛先の数・金額によって変わりますが、売上全体の数%を保険料のような形で支払うイメージです。
資金繰りが急務かどうか、貸し倒れリスクへの備えが重要かどうか、というビジネス上の優先順位によって、買取型と保証型のどちらを選ぶかが決まります。保証型の場合は「手数料」というより「保険料」「保証料」という概念のため、買取型よりも細かい算定方法・期間契約などがある点に注意が必要です。
前述でも触れましたが、ファクタリングの手数料には大きな幅(1~20%程度)があります。この手数料の幅が生まれる主な要因である「売掛先の信用度」や「売掛金の規模・回収期間」、「ファクタリング会社のリスクヘッジポリシー」、「2社間と3社間のリスク差」などを取り上げ、手数料が高くなるメカニズムを分かりやすく解説します。
ファクタリング会社は、資金を必要としている企業(自社)の財務状態だけでなく、売掛先の信用力を重視して審査します。なぜなら、最終的に売掛金を支払うのは「売掛先」だからです。もし売掛先の財務状況が悪く、支払いが滞るリスクが高いと判断されると、ファクタリング会社はそのリスクを手数料に上乗せすることになります。
売掛先の業種:景気変動の影響を受けやすい業種や、倒産リスクの高い業種の場合は、手数料率が高くなりがちです。
資本金や財務状況:資本金が大きく、安定したキャッシュフローを持つ売掛先のほうがリスクが低いと判断されます。
取引実績の長さ:ファクタリングを検討する企業とその売掛先が長期にわたり安定した取引を続けている場合は、支払いの確実性が高いと見なされ、手数料率も低めになります。
売掛先の倒産や支払い遅延が発生する確率が高いほど、ファクタリング会社はそのリスクをカバーするために手数料を上げざるを得ないのが実情です。逆に、売掛先の信用力が極めて高い場合には、手数料率も1~5%程度など、かなり低くなるケースもあります。
売掛金の額が大きいほど、ファクタリング会社が買い取る(もしくは保証する)金額も大きくなるため、リスクの絶対額が大きくなります。一方、ある程度高額でも売掛先が優良企業で、複数回に分けて支払いが行われるといった場合は、リスクを分散できるため、手数料率が下がることもあります。
ファクタリング会社は、売掛金の入金が行われるまでの期間のリスクを負います。1〜2か月程度の回収期間であればリスクは比較的低いですが、3か月以上かかる場合は不確定要素が増えるため、手数料に影響を与えやすいです。たとえば、1年先に支払期限がある売掛金を早期資金化したいとなると、想定できる経済情勢の変化や売掛先の状況変動も多く、手数料が上がりがちです。
・大手ファクタリング会社:資本力や審査ノウハウが充実しており、リスク分散の仕組みや取扱い案件の幅も広いため、比較的安定した手数料率を提示しやすい。
・中小ファクタリング会社:独自の柔軟な審査基準を持っていることが多く、リスクが高い企業でも引き受ける代わりに、手数料が高めになりがち。
ただし、大手でも案件ごとにリスク判断は異なり、一概に「大手=手数料が低い」訳ではない点には注意が必要です。
ファクタリング会社ごとに、「この条件なら何%まで下げられる」という独自の基準があります。たとえば、売掛先が上場企業で、取引実績が豊富な場合にのみ特別な優遇率を適用する会社がある一方、売掛先の業種や地域によっては契約を制限している会社も存在します。このため、複数のファクタリング会社に見積もりを依頼し、比較検討することが重要になります。
・1回だけの利用よりも、リピート契約(継続して利用)が前提であれば、リスクを把握しやすいため手数料を下げるファクタリング会社もあります。
・会計ソフトの連携や財務アドバイスなど、付加サービスを利用することで、売掛金管理や債権回収が円滑になる場合、追加の費用は発生するものの、結果としてリスクが下がり手数料を下げられるケースもあるでしょう。
2社間ファクタリングでは、売掛先は契約の当事者ではないので、「ファクタリングを利用している」という事実を知らないことが多いです。そのため、ファクタリング会社から見ると、売掛先に直接請求できないリスクや、支払い拒否・遅延などのリスクが高まります。一般的に「2社間は手数料が高い」「3社間は手数料が低い」と言われるのは、このリスク構造の違いが大きな理由です。
3社間ファクタリングの場合、売掛先もファクタリング契約を認識しており、支払い先もファクタリング会社へ直接行う形になります。売掛先の「逃げ」や「支払い拒否」の可能性が著しく低くなるので、ファクタリング会社としては回収のリスクヘッジができるようになり、その分手数料を低く設定できます。
2社間はどうしてもリスクが高くなりますが、売掛先の信用情報をファクタリング会社に開示したり、継続取引の実績を示したりすることで、手数料を交渉できる場合もあります。また、契約金額の一部だけをファクタリングする(必要最低限の資金化にとどめる)ことで、リスクを抑えて手数料率を下げられることも考えられます。
ファクタリングは便利な資金調達手段ですが、その手数料が高いと結局負担が重くなります。ここでは、できるだけ手数料を安く抑えるための具体的なコツを紹介します。
ファクタリング会社は売掛先の信用度を最重視します。売掛先が上場企業、または財務状況が良好で支払い遅延のリスクが低いと判断されれば、手数料率は下がりやすくなります。売掛先の決算書類や与信情報、取引実績などを整理し、できる範囲でファクタリング会社に提供しましょう。「何年間も継続取引がある」「これまで支払い遅延が一度もない」といった情報を客観的に証明できれば、ファクタリング会社の不安を払拭し、手数料率を下げる材料になります。
ファクタリング会社ごとにリスク基準や手数料設定の方針が異なるため、1社だけの提案で即決せず、最低でも2~3社は比較検討するのがおすすめです。相見積もりを行うことで、他社より高い手数料を提示されても、交渉材料にすることが可能です。「◯社では〇%と言われたのですが、御社ではもう少し下げられませんか?」といったように具体的な数字を提示して折衝することで、より有利な条件を引き出せる場合があります。
継続的にファクタリングを利用する前提であれば、単発契約よりもリスクを把握しやすくなるため、ファクタリング会社は手数料を下げやすくなります。「今後も頻繁に売掛金をファクタリングする予定がある」と伝えると、リピート割引や特別レートが提示されることがあります。特に大手のファクタリング会社や、実績を積んでいる中小ファクタリング会社では、リピート契約に関する優遇策を積極的に打ち出しているところもあるため、事前に確認すると良いでしょう。
2社間ファクタリングであっても、債権譲渡登記を行うことで手数料が若干下がるケースがあります。
登記をすることで公的に債権を譲渡した事実を証明でき、回収リスクを軽減できるためです。ただし、登記費用が別途発生する点には注意しましょう。また、保証型ファクタリングを一部組み合わせることで、万一の貸し倒れリスクを大きく軽減し、結果として買取型の手数料を抑えやすくする方法もあります。ただし、保証料(保険料に近い形)の支払いが必要なので、トータルコストで見て安くなるかどうかを検討してください。
売掛金の全額を一度にファクタリングすると、貸し倒れリスクを大きく背負うことになるため、ファクタリング会社は高めの手数料を設定します。資金ニーズが「一部だけ」で足りる場合は、不要な分までまとめて資金化しないようにしましょう。たとえば、売掛金が500万円あっても、すぐに必要なのは200万円だけなら、200万円分だけファクタリング会社に買い取ってもらう。こうすることで、リスクの絶対額を減らし、手数料率の低減や、総支払い額を圧縮できる可能性があります。
ファクタリングの主な費用は「買取手数料」や「保証料」ですが、それ以外にも事務手数料や印紙税などの諸費用が発生する場合があります。手数料だけに目を奪われていると、総額としては割高になってしまう可能性があるため、契約時にしっかり確認しましょう。
ファクタリング会社によっては、「審査手数料」「事務手数料」を別途請求してくる場合があります。一例として、「契約額の○%」や「一律で数万円」など、各社で設定が異なります。中には「手数料無料」と謳っていても、書類作成費用や事務連絡費などの名目で徴収されるケースもあるため、見積もり時点で明確に質問しましょう。
2社間ファクタリングを利用する際に、債権譲渡登記を行う場合、別途登記費用がかかります。登記をすることで、ファクタリング会社が安心してリスクを負えるため、手数料が少し安くなるメリットがあります。ただし、登記費用の相場は契約金額や担保設定などにより異なりますが、数万円〜数十万円程度になることもあるので、手数料との「差し引き」で実質的に得なのか見極めが必要です。
ファクタリング会社によっては、遠方の取引先企業がある場合や、契約のための訪問が必須の場合に、出張費用や交通費を別途請求してくることがあります。近隣で面談できる、もしくはオンライン対応のみでOKという会社を選べば、このような費用を節約できるケースもあるでしょう。
契約書の締結にあたって、印紙税が必要になる場合があります。ファクタリング契約書は「金銭消費貸借契約書」に該当しないため厳密には非該当の場合も多いのですが、契約内容によっては印紙を貼付するケースがある点に留意しておきましょう。印紙代自体は数百円~数千円と比較的小さい金額ですが、複数回契約する場合は負担が大きくなります。事前に誰が負担するのか(自社かファクタリング会社か)も含めて確認が必要です。
ファクタリングによる資金調達は「借り入れ(貸付契約)」ではなく、売掛債権を売却して現金化する方法です。そのため、経理処理や税務上の扱いが通常の借入金とは異なるので注意が必要です。
ファクタリング手数料は、売掛債権を“売却”することで発生した損失として処理する場合が一般的です。具体的には、ファクタリング手数料や割引料などを“売掛債権売却損”として計上します。たとえば、売掛金100万円を95万円で買い取ってもらい、5万円の差額が手数料に相当する場合、その5万円が売上債権売却損となります。
企業の会計方針や税理士の見解によっては、ファクタリング手数料を「支払手数料」勘定で処理する場合もあります。どちらを選択しても、経理上の本質は“売掛金を譲渡することで発生したコスト”であることに違いはありません。ただし、税務上の申告書類への記載や、財務諸表への影響が異なる可能性があるため、自社の会計士・税理士と相談のうえ決定するのが確実です。
ファクタリングは金融取引(債権の譲渡)と位置づけられるため、一般的には「非課税取引」とされています。つまり、ファクタリング手数料に対しては消費税は課されないのが原則です。ただし、契約スキームによっては金銭の貸借や仲介手数料としてみなされる場合もあるため、念のため契約時に確認しておきましょう。
ファクタリング手数料に消費税が含まれない場合は、仕入税額控除の対象にもなりません。消費税の納付額を減らすメリットなどは特にないため、税務上は「ファクタリング手数料=非課税」という認識が基本です。
売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、現金を受け取った時点で「売掛金の消滅」と「ファクタリング手数料の発生」が確定します。よって、そのタイミングで経費処理(または損失処理)を行うのが原則です。
ファクタリング手数料は法人税の計算上、「事業に必要な経費(損失)」として損金算入できる場合がほとんどです。ただし、異常に高額な手数料(相場を逸脱した金額)を計上していると、税務当局から指摘を受ける可能性がゼロではありません。適正な手数料であれば問題ありませんが、万が一、ファクタリング契約の実態が借入金の迂回取引とみなされるなど、特殊なケースがある場合は税理士へ早めに相談してください。
前の見出しまでで、ファクタリングの手数料相場や手数料が決まる要因、安く抑えるテクニックなどを学びました。では、実際にファクタリング会社を選ぶ際に、どんなポイントを比較すればいいのでしょうか?
ここでは、特に手数料の面にフォーカスした会社選びの基準を紹介します。
ファクタリング会社の規模や営業年数、実績は信頼度を判断するうえで大きな指標です。
公式サイトなどで「設立年数」「取引実績」「主要顧客」「グループ企業の有無」などを確認しましょう。一般的に、長く営業している会社や大手グループの子会社は、独自の審査基準やノウハウが確立されているため、無理に高い手数料を取らないケースが多いです。口コミや評判サイトも参考になりますが、個人の感想が中心となっているため、過度に鵜呑みにせず、複数の情報源を比較するのがおすすめです。
・ファクタリング会社A:手数料5%だが、事務手数料や印紙代などが高い
・ファクタリング会社B:手数料7%だが、それ以外の費用は一切かからない
こうしたケースでは、総額で見たときにどちらが安くなるかを算出してみましょう。実際に契約する前に、見積もりで「総支払額」を確認し、可能であれば書面で提示してもらうようにしましょう。
自社の希望条件(売掛先への通知を避けたいのか、多少通知しても良いのか)と照らし合わせ、2社間ファクタリングに強いのか、3社間ファクタリングを得意とするのかを見極めます。3社間をメインに扱うファクタリング会社は、2社間に対応できない場合や、対応できても手数料が高めのことがあります。2社間をメインにする会社でも、売掛先の信用度次第で手数料率に幅があるため、事前に具体的な相場をヒアリングし、自社の状況を詳細に伝えておくことが重要です。
ファクタリング会社によっては、リピート利用で手数料が下がる仕組みや、知人や他社を紹介することでキャッシュバックや割引を受けられる制度があるところもあります。もし今後、ファクタリングを複数回利用する可能性があるなら、長期的に考えて最も総支払い額が安くなる会社を選ぶのがおすすめです。
手数料だけではなく、契約締結までのスピードやスタッフの対応の丁寧さ・誠実さも重視しましょう。ファクタリング契約では、経理情報や売掛先の詳細なデータを提供することになるため、不明点を気軽に質問できる「相談しやすい体制」が整っている会社であるかどうかも大切です。極端にレスポンスが遅い会社や、契約前から不信感を抱くような対応をされた場合は、仮に手数料が安くても後々トラブルになる可能性があるので注意が必要です。
ここまで
を詳しく解説してきました。ファクタリング手数料は、その仕組みやリスク構造、契約方式によって大きく差が出るため、利用前にはしっかりと情報収集を行い、複数社を比較しながら交渉することが成功の鍵となります。
手数料の相場は1~20%前後と幅がありますが、売掛先の信用度を示し、複数のファクタリング会社へ相見積もりを取ることで、より有利な条件を引き出すことが可能です。また、会計処理や税務上も、借入金とは異なる扱いになるため、適切に経理処理をしておく必要があります。
この記事を参考に、ぜひ自社に合ったファクタリングを活用し、スムーズかつ低コストで資金調達を実現してください。
監修
税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。