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手形とは? 基礎知識から2026年度廃止への対応まで徹底解説【入金業務DX】

手形とは? 基礎知識から2026年度廃止への対応まで徹底解説【入金業務DX】

手形は単なる決済手段にとどまらず、与信と資金調達の設計そのものに影響を与えてきました。デジタル化と制度変更の波は、資金繰りの前提や入金管理プロセスにも再設計を迫ります。本記事では、手形の役割を基礎から再点検し、会計・税務・内部統制を踏まえた移行とDXの進め方を解説します。

目次

手形とは何か ― 今さら聞けない基礎

手形とは何か

手形は、将来の一定期日に金銭の支払いを約束する有価証券です。企業間の掛取引において、資金繰り(サイト)の調整と、取引の信用を裏付ける役割を担ってきました。手形には大きく「受取手形」と「支払手形」があります。

支払手形と受取手形の違い

  • 受取手形: 売上の対価として受け取る手形。期日を迎えると現金化でき、期日前に金融機関で割引して資金化することも、取引先への支払いに裏書譲渡して決済に使うことも可能です。
  • 支払手形: 自社が仕入や外注費などの支払いのために振り出す手形。期日までに当座預金口座に資金を準備し、銀行を通じて決済されます。
  • 当座預金: 手形・小切手の決済を行う口座。新規開設や帳票の発行を制限する金融機関が増えており、紙の手形の取扱いは年々縮小傾向です。

小切手との違い・併用ケース

小切手との違い・併用ケース
  • 小切手: 即時払いが前提。受領後次第、呈示期間(原則10日以内)に銀行へ持ち込み、支払いを受けます。
  • 約束手形: 将来期日払い。取引条件として支払サイト(30日・60日など)をあらかじめ決めて資金繰りを調整できます。
  • 併用ケース: 仕入代金の一部を現金(または小切手)、残りを手形で支払う「半金・半手」のような慣行が残る業界もあります。

手形交換所の役割と近年の廃止議論

手形・小切手は金融機関同士で手形交換所を介してクリアリング(交換・決済)され、不渡りの管理や取引停止処分の仕組みが運用されてきました。
 
デジタル化の進展により、交換は電子交換所へ一本化され、紙手形・小切手の利用を段階的に終了させるロードマップが進行中です。
 
具体的には、2026年度末までに交換枚数ゼロを目標とし、2027年度初からは電子交換所を介さない相対決済(振込・でんさい記録・個別取立)へ移行する運用が示されています。各金融機関は最終振出期限や取立受付終了日など個別スケジュールを公表していますので、実務では自社の取引銀行の告知を必ず確認してください。

※「手形・小切手の廃止」の制度背景・最新スケジュールは、当サイトの専用記事で詳しく解説しています(リンク)

手形取引の流れと期日計算

手形取引の流れと期日計算

受領→台帳・会計→期日前の資金化(割引/裏書)→期日呈示→入金、という一連の流れをミスなく回すことが基本です。本項では、期日の数え方・サイト設定・呈示期限と、銀行実務での処理を確認していきます。

期日(支払期日・サイト・60日運用)の考え方

手形の期日は、締日や納品日などの基準日から一定のサイトを設けて決めます。かつては90~120日といった長期サイトが慣行でしたが、現在は原則60日以内が前提です。
 
取引基本契約、発注書、請求書の各書類で期日が揃っているかをまず確認し、休日にあたる場合は翌営業日に繰り延べるといった運用ルールを社内規程に明文化しておくとミスが減ります。

約束手形 支払期日「3営業日」ルールとは

約束手形は、支払期日当日を含めて3銀行営業日の間に呈示するのが原則です。この期間を外すと、銀行取立ができなかったり、権利行使が難しくなったりします。
 
期日が休日にあたるときは翌営業日に繰り延べるのが通例で、支払場所以外の持ち込みでは銀行の運用上、期限が短くなることもあります。社内では「誰が・いつまでに・どこへ持ち込むか」を明文化し、回収ルートや責任分担を明確にしておくと現場の迷いがなくなります。

手形を受け取ったら銀行でどう処理する?

受け取った手形は、期日前に銀行へ取立預けを行い、期日管理と自動呈示を任せるのが基本です。
 
資金需要がある場合は割引で期日前の現金化を選び、取引先への支払いに充てるなら裏書での決済に回すなど、状況に応じて使い分けます。いずれの方法でも、台帳の記録、承認フロー、会計仕訳を一体で設計しておくと齟齬が生まれません。
 
銀行の入金扱い時間によって帳簿計上日が前後するため、自社ルールで統一することも重要です。

手形のメリット・デメリット

手形は「資金繰りの柔軟性」と引き換えに、「不渡り・印紙税・事務負荷」というコストとリスクを抱えます。ここでは採用・縮小・代替の判断に必要なプラスとマイナスの要素を確認していきましょう。

資金繰りメリットと与信効果

  • 振出側(支払手形): 支払サイトを確保することで運転資金の計画を立てやすいです。
  • 受取側(受取手形): 割引・裏書で資金化の選択肢を持てます。
  • 与信効果: 不渡り情報や取引態様が市場規律として働き、相手先への牽制機能を一定程度果たします。

リスク:不渡り・印紙税・事務負荷

  • 不渡り・連鎖リスク: 6か月以内に2回の不渡りで取引停止(一般に2年)。仕入・販売の連鎖停止が起こり得ます。
  • 印紙税: 約束手形は印紙税の課税対象。金額区分に応じた印紙貼付が必要で、貼付漏れ・不足は過怠税(本来税額の最大3倍、任意申告で軽減)の対象になります。
  • 事務負荷: 期日管理、郵送・保管、割引・裏書台帳、不渡り対応、印紙管理など、紙ならではの作業が多いです。

手形の税務・会計実務ガイド

手形の税務・会計実務ガイド

仕訳の型、注記、税務論点を正しく押さえないと期末のブレや指摘につながります。ここでは最低限押さえておくべきポイントを、会計・税務の実務に沿って整理します。

仕訳例:受取手形・支払手形の基本パターン

手形の流れは「売掛(買掛)→手形→預金」に要約できます。
売上に対して手形を受け取れば受取手形で認識し、期日に預金へ振り替えるのが基本です。支払側は買掛の支払いに手形を振り出し、期日に当座から決済します。期日前の資金化は割引、支払いへの転用は裏書を選ぶだけで型が決まります。
 
受領→決済→割引→裏書→支払手形→不渡りの順に、型と注意点だけを簡単に確認していきます。

  • 受領(100万円): 受取手形100/売上100。売掛計上済みなら(受取手形/売掛金)に振替。
  • 期日決済(満額): 当座預金100/受取手形100。資産の入替で損益は動かない。
  • 期日前割引(割引料1万円): 当座預金99・手形売却損1/受取手形100。割引は売買扱い、割引時に費用化(消費税は原則非課税)。
  • 裏書で買掛支払(80万円): 買掛金80/受取手形80。裏書には遡及義務が残るため、偶発債務として台帳管理・注記対象の可否を方針化しておきます。
  • 支払手形(振出→期日 80万円): 振出=買掛金80/支払手形80 → 期日=支払手形80/当座預金80。期日までの資金手当は必須。
  • 不渡り(自社保有分): 売掛金100/受取手形100(「不渡手形」勘定での一時管理も可)。以後は与信見直し・回収策・貸し倒れ引当を検討。

勘定科目と決算書表示のポイント

割引や裏書は、将来の償還・遡及の可能性を伴うため、偶発債務としての注記が必要になる場合があります。決算で迷わないコツは、期首に「どの勘定を使うか」「注記の対象と範囲」「残高管理のやり方」を方針化しておくことです。

  • 電子化前提の設計: 手形依存が縮小するほど、売掛金の回収管理と入金消込(銀行明細との突合)が中心になります。
  • 割引・裏書の開示: 偶発債務として注記が必要になる場合があります(裏書遡及義務・割引手形の償還義務)。
  • 表示実務: 割引高・裏書譲渡高の注記や、支払手形・受取手形の区分表示は自社の会計方針に沿って統一します。四半期~期末での注記のブレをなくすことが必要です。

税務調査で指摘されやすい3つの論点

税務調査で指摘されやすい3つの論点

よくある指摘は3つに集約されます。

印紙税の貼付漏れ

金額区分どおりの印紙を貼ります。貼付漏れ・不足が発覚すると過怠税となり、任意の申告・納付で軽減される余地はありますが、原則は本来税額の最大3倍と重いペナルティです。

売掛債権との混同・期日ズレ

売掛→手形振替の発生日・支払期日・呈示期間が台帳・証憑・会計伝票で一致しているかを点検します。営業・経理・与信の連携が崩れると期日管理が破綻します。

受取手形割引時の利息計上タイミング

割引は売買扱いです。割引料は「手形売却損」等で割引時に費用化され、税区分は非課税です。請求書や割引計算書の保存、勘定科目の統一を徹底しなければいけません。

手形廃止後の仕訳はどう変わる?(でんさい・電子請求書の場合)

紙の手形を軸にした勘定から電子記録債権・電子記録債務や、電子インボイス+振込という「データ起点」の処理へ切り替わります。
 
受取側は、売掛金を電子記録債権に振替、記録に基づいて決済時に預金を認識します。支払側は、買掛金を電子記録債務に振替、予約した支払に合わせて預金を減少させます。
 
構造化された請求データを使えば、入金消込と仕訳作成の自動化が進み、紙手形で発生していた偶発債務の管理や印紙税の論点も原則として不要になります。移行期は旧来の台帳と新運用が並走するため、勘定科目の切り替え時点、承認フロー、消込ルールを日付で明確に区切るのが失敗しないコツです。

2026年度手形廃止の背景とスケジュール

「なぜ廃止されるのか」「いつ何が変わるのか」まずはこの二つを押さえれば、迷いはぐっと減ります。背景の要点と、会社として進めるべき準備の順番を、簡単に整理します。

廃止理由:DX・コスト削減・不正防止

  • コスト: 輸送・保管・印紙・点検・郵送など紙固有のコストが高い。
  • リスク: 改ざん・盗難・紛失・誤送。
  • 非効率: データ連携できず、会計・売掛管理・資金繰りシステムとの統合が難しい。
  • 政策意図: 標準化(電子記録・構造化請求)、資金繰りの適正化(サイト短縮)、徴税・監査の高度化。

企業に求められる移行マイルストーン

  • ~2025年度
     
    • 与信規程・支払条件を「原則60日以内」へ改定
    • 銀行との協議(最終振出期限、取立終了日、当座口座の今後)
    • でんさい・電子インボイスのテスト導入、マスタ整備(得意先・仕入先・口座)
  • 2026年度
     
    • 紙の発行・取立の終了スケジュールに同期した本番移行
    • 契約書・基本取引約款・発注書・請求書の電子化条項整備
    • 社内周知(営業・購買・経理・与信・監査)と運用訓練
  • 2027年度初~
     
    • 電子交換所を介さない決済が前提に。相対決済(振込・でんさい記録・個別取立)へ一本化
    • 手形関連の帳票・台帳はアーカイブ化し、照会・証跡用途に限定

(参考)主要行の「手形・小切手最終発行/入金受付」予定(要旨)

※最新情報は各行の告知をご確認ください

手形廃止後の代替手段とDX

手形廃止後の代替手段とDX

「何に置き換えるのか」「どう運用するのか」を、会計・与信・業務フローの一体設計で決めるのが肝です。ここでは代表的な代替手段を比較し、入金消込まで含めて適切な組み合わせを示します。

電子記録債権(でんさい)

  • 発生・譲渡・分割・決済の一連の操作が記録原簿で管理され、紙の搬送が不要です。
  • 受取側は期日前資金化(譲渡・割引に相当)や分割が柔軟で、支払側は決済予約・資金繰りの見通しを立てやすいです。
  • 会計上は電子記録債権/電子記録債務で管理し、裏書遡及義務のような偶発債務は原則生じません。

ファクタリング・ABL

  • ファクタリング: 売掛債権を譲渡して早期資金化。回収リスクの移転度合い(償還請求権の有無)に留意。
  • ABL(動産・債権担保融資): 在庫・売掛・機械など事業資産を担保に調達。金融機関の審査・モニタリング要件に合わせて運用。

電子インボイス+入金消込ツール

  • 電子インボイス(JP PINT): 請求データが構造化され、販売・会計・銀行APIと連携しやすい。
  • 入金消込ツール: 銀行入出金明細×請求データの自動突合、手数料控除・複数請求の一括入金にも対応。不明入金の撲滅月次早期化に直結します。
  • 導入ポイント: 対象銀行API、FBデータ、ERP/会計ソフトとの連携範囲、名寄せルール(カナ・振込依頼人名・仮受処理)、監査対応ログを事前評価。
  • 当社の入金消込ソリューションについては製品ページをご確認ください。

入金消込ツールが解決する3つの課題

  1. 消込の自動化: 入金明細と請求データの自動マッチング。合算入金・手数料差引・端数調整に対応。
  2. 不明入金ゼロへ: 名寄せルール、仮受・照会ワークフロー、督促連携で滞留を解消。
  3. 会計連携の即時化: 仕訳自動作成とERP連携で締めの短縮と属人化の解消

入金消込ツール導入による経営的なメリット

  • コスト:封入・郵送・印紙等の紙固有コスト削減による定常費の平準化
  • 安全性:紛失・盗難・記載ミスなど紙特有のリスク低減

ツール導入と並行して進めたい社内体制の整備

  • 決済方法・サイトの統一、名寄せルール/承認フローの標準化、ITリテラシー向上と運用訓練を並行して進める。

よくある質問(FAQ)

手形のよくある質問

手形は現金化できますか?

できます。期日当日から3営業日以内に銀行へ呈示して取立します。期日前に資金が必要なら手形割引で現金化が可能です(割引料は「手形売却損」で費用化、税区分は非課税)。

手形の税務仕訳でよくあるミスは?

  • 割引料の扱い: 支払利息の期間按分ではありません。割引時に「手形売却損」で一括費用化(非課税)
  • 裏書の仕訳: (借)買掛金/(貸)受取手形が基本。仕入勘定を直接動かさない。
  • 印紙税: 貼付漏れ・不足は過怠税(本来税額の最大3倍、任意申告で軽減)。
  • 期日・呈示: 期日含む3営業日の呈示期間を失念し、取立が遅れてトラブルになる。
  • まとめ:手形の“今”と“これから”

    紙手形は縮小・終了の局面に入り、2026年度末の交換ゼロ目標→2027年度初から相対決済への移行が前提です。
     
    実務の要点としては、サイト60日以内、呈示3営業日、偶発債務の注記、そしてでんさい/電子インボイス+入金消込への移行設計を確認しておくと良いでしょう。
     
    これからの標準は、電子データ起点×自動消込です。手作業前提のフローから脱却し、早期化・精度・ガバナンスを一気に底上げすることをおすすめします。

    監修

    税理士高橋龍二氏

    税理士 高橋龍二

    1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。

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