税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。
手形は単なる決済手段にとどまらず、与信と資金調達の設計そのものに影響を与えてきました。デジタル化と制度変更の波は、資金繰りの前提や入金管理プロセスにも再設計を迫ります。本記事では、手形の役割を基礎から再点検し、会計・税務・内部統制を踏まえた移行とDXの進め方を解説します。
目次

手形は、将来の一定期日に金銭の支払いを約束する有価証券です。企業間の掛取引において、資金繰り(サイト)の調整と、取引の信用を裏付ける役割を担ってきました。手形には大きく「受取手形」と「支払手形」があります。

手形・小切手は金融機関同士で手形交換所を介してクリアリング(交換・決済)され、不渡りの管理や取引停止処分の仕組みが運用されてきました。
デジタル化の進展により、交換は電子交換所へ一本化され、紙手形・小切手の利用を段階的に終了させるロードマップが進行中です。
具体的には、2026年度末までに交換枚数ゼロを目標とし、2027年度初からは電子交換所を介さない相対決済(振込・でんさい記録・個別取立)へ移行する運用が示されています。各金融機関は最終振出期限や取立受付終了日など個別スケジュールを公表していますので、実務では自社の取引銀行の告知を必ず確認してください。
※「手形・小切手の廃止」の制度背景・最新スケジュールは、当サイトの専用記事で詳しく解説しています(リンク)

受領→台帳・会計→期日前の資金化(割引/裏書)→期日呈示→入金、という一連の流れをミスなく回すことが基本です。本項では、期日の数え方・サイト設定・呈示期限と、銀行実務での処理を確認していきます。
手形の期日は、締日や納品日などの基準日から一定のサイトを設けて決めます。かつては90~120日といった長期サイトが慣行でしたが、現在は原則60日以内が前提です。
取引基本契約、発注書、請求書の各書類で期日が揃っているかをまず確認し、休日にあたる場合は翌営業日に繰り延べるといった運用ルールを社内規程に明文化しておくとミスが減ります。
約束手形は、支払期日当日を含めて3銀行営業日の間に呈示するのが原則です。この期間を外すと、銀行取立ができなかったり、権利行使が難しくなったりします。
期日が休日にあたるときは翌営業日に繰り延べるのが通例で、支払場所以外の持ち込みでは銀行の運用上、期限が短くなることもあります。社内では「誰が・いつまでに・どこへ持ち込むか」を明文化し、回収ルートや責任分担を明確にしておくと現場の迷いがなくなります。
受け取った手形は、期日前に銀行へ取立預けを行い、期日管理と自動呈示を任せるのが基本です。
資金需要がある場合は割引で期日前の現金化を選び、取引先への支払いに充てるなら裏書での決済に回すなど、状況に応じて使い分けます。いずれの方法でも、台帳の記録、承認フロー、会計仕訳を一体で設計しておくと齟齬が生まれません。
銀行の入金扱い時間によって帳簿計上日が前後するため、自社ルールで統一することも重要です。
手形は「資金繰りの柔軟性」と引き換えに、「不渡り・印紙税・事務負荷」というコストとリスクを抱えます。ここでは採用・縮小・代替の判断に必要なプラスとマイナスの要素を確認していきましょう。

仕訳の型、注記、税務論点を正しく押さえないと期末のブレや指摘につながります。ここでは最低限押さえておくべきポイントを、会計・税務の実務に沿って整理します。
手形の流れは「売掛(買掛)→手形→預金」に要約できます。
売上に対して手形を受け取れば受取手形で認識し、期日に預金へ振り替えるのが基本です。支払側は買掛の支払いに手形を振り出し、期日に当座から決済します。期日前の資金化は割引、支払いへの転用は裏書を選ぶだけで型が決まります。
受領→決済→割引→裏書→支払手形→不渡りの順に、型と注意点だけを簡単に確認していきます。
割引や裏書は、将来の償還・遡及の可能性を伴うため、偶発債務としての注記が必要になる場合があります。決算で迷わないコツは、期首に「どの勘定を使うか」「注記の対象と範囲」「残高管理のやり方」を方針化しておくことです。

よくある指摘は3つに集約されます。
金額区分どおりの印紙を貼ります。貼付漏れ・不足が発覚すると過怠税となり、任意の申告・納付で軽減される余地はありますが、原則は本来税額の最大3倍と重いペナルティです。
売掛→手形振替の発生日・支払期日・呈示期間が台帳・証憑・会計伝票で一致しているかを点検します。営業・経理・与信の連携が崩れると期日管理が破綻します。
割引は売買扱いです。割引料は「手形売却損」等で割引時に費用化され、税区分は非課税です。請求書や割引計算書の保存、勘定科目の統一を徹底しなければいけません。
紙の手形を軸にした勘定から電子記録債権・電子記録債務や、電子インボイス+振込という「データ起点」の処理へ切り替わります。
受取側は、売掛金を電子記録債権に振替、記録に基づいて決済時に預金を認識します。支払側は、買掛金を電子記録債務に振替、予約した支払に合わせて預金を減少させます。
構造化された請求データを使えば、入金消込と仕訳作成の自動化が進み、紙手形で発生していた偶発債務の管理や印紙税の論点も原則として不要になります。移行期は旧来の台帳と新運用が並走するため、勘定科目の切り替え時点、承認フロー、消込ルールを日付で明確に区切るのが失敗しないコツです。
「なぜ廃止されるのか」「いつ何が変わるのか」まずはこの二つを押さえれば、迷いはぐっと減ります。背景の要点と、会社として進めるべき準備の順番を、簡単に整理します。
※最新情報は各行の告知をご確認ください

「何に置き換えるのか」「どう運用するのか」を、会計・与信・業務フローの一体設計で決めるのが肝です。ここでは代表的な代替手段を比較し、入金消込まで含めて適切な組み合わせを示します。

できます。期日当日から3営業日以内に銀行へ呈示して取立します。期日前に資金が必要なら手形割引で現金化が可能です(割引料は「手形売却損」で費用化、税区分は非課税)。
紙手形は縮小・終了の局面に入り、2026年度末の交換ゼロ目標→2027年度初から相対決済への移行が前提です。
実務の要点としては、サイト60日以内、呈示3営業日、偶発債務の注記、そしてでんさい/電子インボイス+入金消込への移行設計を確認しておくと良いでしょう。
これからの標準は、電子データ起点×自動消込です。手作業前提のフローから脱却し、早期化・精度・ガバナンスを一気に底上げすることをおすすめします。
監修

税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。