なぜ経理の仕事がなくなるといわれるのか|働き続けるために必要な5つのスキル
「日本国内の研究所がアメリカの専門家と共同研究を行い、2015年に「国内労働人口の49%がAIやロボットなどで代替可能になる」という研究結果※1を発表しました。そこに挙げられた、代替可能性が高い100の業種の中に「経理事務員」も含まれています。
しかし、一概に「経理事務員」といっても人間が判断を下す必要のある重要な業務もあります。経理の仕事全般がなくなる可能性は低いでしょう。
この記事ではAIで代替可能な業務と代替不可能な業務について解説し、AIと上手く付き合う人材になる対応策についても検証します。
※1 参照:野村総合研究所:「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」
目次
なぜ経理の仕事がなくなるといわれているのか
AI(Artificial Intelligence)は「人工知能」として広く知られており、現在は社会生活全般からビジネス分野まで徐々に普及が進んでいます。文章を自動で執筆する「ChatGPT」など、数多くの専門AIが登場し、企業はそれらの活用方法を模索しています。まずは現時点での、企業や事業所のAIの導入状況を確認してみましょう。
中小企業で進むAIの導入
2019年に日本経済研究センターが発表した調査「日本企業のAI・IoTの導入状況※2」によると、AIをすでに導入している企業は全体のおよそ14%超です。中でも中小企業での導入事例が多く、さらに小規模な企業の方が導入割合が高いという結果が出ています。
大企業ではAIよりもIoT(モノのインターネット)の導入が進んでいるものの、今後導入を検討している企業はかなりの割合に上っています。
※2 参照:日本経済研究センター:「日本企業のAI・IoTの導入状況」
AIの導入に前向きな業種
AIの導入比率が高い業種は、「金融・保険業」と「運輸・郵便業」、そして「サービス業」などが上位を占めています。反対に、製造業や情報通信業では導入比率が低めです。
経理に関してはAIが搭載された会計ソフトなどが増えていることから、導入比率は徐々に伸びていると予想されます。
経理部門でのAI導入
経理でのAI導入は、既存の業務の代替手段と考える企業が多いです。今後3~5年でAIの導入により減ると予想されている業務は、「一般事務」「総務・人事・経理」が特に目立っています。経理を含む3つの仕事は、調査対象の約5割が人間の業務が減ると回答しており、AIの普及とともに増えると回答した人はわずか1割にも満たない数でした。
つまり、経理業務にAIが入り込んでくる可能性はとても高いといえます。とはいえ、前述の通り、全ての業務がAIによってなくなることはありません。
次の項目から、
- AIによってなくなる経理の仕事
- AIでもなくせない経理の仕事
- AIと上手く付き合う経理になる方法
の3つを順番に解説していきます。
AIによってなくなる経理の仕事
現状でAIが得意とする業務は、データを収集・整理してチェックを行い、それを決まったフォームに出力するような定型的作業です。
一方で経理(経理事務)はお金に関わる日々のデータを扱い、それを日次・月次・年次業務で整理・管理する仕事です。確かに経理とAIの業務には共通性がありますが、具体的にはどのような業務がAIに代わる可能性があるのでしょうか。主な業務を挙げてみましょう。
仕訳業務
企業が日々の経営を記録する上で必要になる、さまざまな帳簿への記帳作業は、現在でもほとんどがExcelや会計ソフトで行われています。人の手で仕訳するのは手間がかかりますが、AI なら自動で仕訳できます。こうした定型業務は、最も自動化しやすいといえるでしょう。
支払業務
取引先への支払業務も、請求書の処理から支払手続きまで、会計ソフトで行うことが一般的です。AIを導入すれば、未払い金や支払い漏れなどのイレギュラー案件も自動化できるでしょう。
税務申告
税理士による専門的な処理が必要ない部分では、経理が行う税務業務もAIに代わる可能性があります。税務申告の書式は定型フォームのため、業務の自動化に適しています。
決算書作成
企業にとっては1年間の成績表ともいえる決算書の作成も、経理の立場からすれば日々の業務の積み重ねです。一つ一つの業務は毎日の記帳になるため、やはり税理士による処理が必要ない部分はAIに代わる可能性が高いでしょう。
問い合わせ対応
経理は企業内または取引先との間で、会計に関するデータのやりとりを行い、必要な時は相手からの問い合わせにも対応します。しかし、問い合わせ内容がAIでも解析可能になれば、AIで代替できる業務になるでしょう。
AIでもなくせない経理の仕事
AIは周囲の状況を分析し、自分で考えて判断することはできません。基本的には人間から命令をもらわないと行動することはありません。
そのため、非定型の業務は苦手な分野だといえます。ここでは、AIでは代替できない経理の業務について考えてみましょう。
課題の分析と対処
経理の業務に関して課題になっている部分を抽出~分析してから、それに対する改善案を見つけることなどはAIの能力を超えています。業務フローやシステムの改善も、まだ人間の仕事と考えてよいでしょう。
責任をもった業務判断
資金繰りのように、担当者の責任において判断が必要な業務もAIには向きません。なぜなら、AIがミスを犯したとしても、その責任はAIを所持している企業に属するからです。そのため、AIに最終的な判断を行わせるのはハードルが高いでしょう。また、その場の状況に臨機応変に対応して判断することもAIには難しいでしょう。
コミュニケーションが必要な業務
対人的なコミュニケーションが必要になる業務も、AIでは難しい仕事です。近年では文章を自動で生成し、あたかも人間と会話をしているようなやり取りを可能としています。しかし、実用性という面ではまだまだ劣っており、相手の心理をとらえて的確に対応するのは人間の役目です。経理の仕事はコミュニケーションも多く発生します。上長への報告や請求書などの社内からの質問回答など、細かいやり取りはAIに任せることはできません。
AIを含むシステムのメンテナンス
会計ソフトやAIを組み合わせたシステムでは、定期的なメンテナンスや問題点の分析などが必要です。これもAIが自己判断することはできないので、人間の仕事です。AIのどこが間違っているのか、どこを調整すれば効率化が図れるのかなど、経理の視点から調整する必要があります。
以上のように、AIだけでは将来の予測、判断を伴う業務、突発的な事態への対応はできません。これらはデータから処理できないもので、経験や感覚を業務に活かせる人間にしかこなせません。想像力や創造力が必要な仕事も同様です。
さらに、経理部門で必要な人材を育成したり、他部門と協力して業務を進めたりすることも、現状では人間にしかできないでしょう。
ただし、AIの可能性は未知数です。これからさらに進化することは間違いなく、代替できる業務の限界も分かりません。今後より多くの仕事がAIに取って代わられる可能性があります。しかし、経理の仕事すべてがなくなるわけではありません。次の項目では、経理として働き続けるポイントについて解説しましょう。
経理として働き続けるために身に着けるべき5つのスキル
経理として働き続けるためには、AIには真似できない業務知識や能力を身に着ける必要があります。では、AIが真似をできないスキルとはなんでしょうか。
この項目では、AIで代替できない重要な5つのスキルを紹介します。これら全てを身に着ける必要はありません。ご自身のキャリアプランに合わせて考えてみてください。
財務、会計、税務関連の知識
財務や税務まで含めた総合的な会計の知識があれば、どのようなビジネスシーンでもその場で柔軟に対応できます。また、法律の知識を常にアップデートすることも大事です。経理から少し離れますが、このような知識を活かして、経営企画コンサルティングを担当することもできます。特に重要な判断が必要な財務のスキルは、AIには真似できない分野です。
資金面から、会社の運営について考える分析力
財務に通じるスキルですが、会社の経営戦略を担う資金面の業務を担当するスキルも、AIでの代替が難しい分野です。資金調達や投資などは、知識以外に経験や判断力が必要になるためです。
M&Aなどの専門性の高い知識
現在は日本でもM&Aが一般的になっています。M&Aを成功させるためには、専門的な知識に加えて、責任を伴った判断力も求められます。相手との駆け引きのように、人対人でしかできない部分もあります。
語学力
自動翻訳技術が進んだとはいえ、海外の相手とコミュニケーションをとりながら取引や業務を遂行するためには、自ら高い語学力を身につけたほうが有利です。相手の感情を読み取りながら話す場合には、AIを通訳代わりにするのは難しいでしょう。
ITに関する知見
AIが自分自身を客観的に分析し、管理やメンテナンスを行うことはできません。ITに関する幅広い知見をもつことは、これからの経理にとって大きな強みになるはずです。
AIツールを深く理解し、どのように活用すれば効率化が図れるか、より質の高い業務ができるかなど、ITに関する知見は持っておいて損をすることはないでしょう。
PCやスマートフォンを使いこなすように、AIツールを使いこなす人材になるために、情報収集を欠かさないようにしましょう。
経理として働き続けるなら、経理系ツールの理解も必須
今後経理が身につけるべきスキルを拡張して、経理系ツールに精通しておくことも、AIに代わられることなく、逆にAIを使う側になるための有効な手段です。
R&ACの提供するシステム・サービスは、債権の一元管理が可能となります。仕訳や債権管理を中心に、入金消込や売上・検収の照合、決済時の金額照合など煩雑な処理を1つのシステムで一元管理できるため、会計業務の効率化が実現できます。
債権管理ツールを深く理解して自在に使いこなせれば、AIによるサポートを受けながら業務の幅を広げることにもつながります。そうなれば、AIはライバルではなく、味方につけることができるのではないでしょうか。
まとめ
2015年に公開された調査では、AIによって代替可能な職種が100種類挙げられていました。経理もその中の1つでしたが、経理担当者が意識改革をすることで、AIにはできない仕事を続けることは可能です。
そのためには専門的で高度な知識やスキルを身につけることと、判断力や柔軟性を活かした業務を増やす必要があります。また、経理系ツールの知識を高めておくことも有効な手段です。AIに職場を明け渡す前に、AIを使う立場になれば、経理の仕事は今後もなくなることはないでしょう。