税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。
ファクタリングは、売掛金を早期に現金化する手段として、企業の資金繰りを迅速に改善する重要な金融サービスです。本記事では、ファクタリングの基本概念から具体的な種類、メリット・デメリット、業界別の活用事例、法的リスクまでを網羅的に解説します。また、安心してファクタリングが利用できるように最新情報と注意点もご紹介します。
目次
ファクタリングとは、企業が保有する売掛金(売掛債権)をファクタリング会社に譲渡し、早期に現金化するためのサービスです。これは、金融機関からの借入や融資とは異なり、負債を増やさずに資金を調達する手段として利用されます。
ファクタリングは、方式と契約の観点から異なる種類に分類されます。それぞれの観点での分類を以下に説明します。
企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、早期に資金を調達する方法です。債権が売却されるため、売掛先が倒産した場合のリスクはファクタリング会社が負います。企業側にとっては現金化が早くできるという利点があります。
ファクタリング会社が売掛債権の保証を行う方法で、売掛先が倒産した場合でも、企業が売掛金を回収できるように保障します。ただし、資金の早期調達ではなく、主にリスク回避のために利用される方式です。
2社間ファクタリングは手続きが早く、売掛先に通知せず資金調達ができる一方、手数料が高く、債権者の負担が大きいです。3社間ファクタリングは売掛先に通知し、承諾を得る必要があるため資金調達に時間がかかるものの、手数料が低く、債権者の負担も比較的少ないのが特徴です。
債権者とファクタリング会社の2社間で行われる取引形態です。この方法では、売掛先に対してファクタリングの利用を通知する必要がありません。手続きがシンプルなため、資金調達のスピードは速く、場合によっては即日での現金化も可能です。しかし、手数料は一般的に高く、売掛金の8%から18%程度が相場感です。さらに、ファクタリング会社が直接売掛先から売掛金を回収するため、利用者のリスクは低減されます。
利用者(債権者)、ファクタリング会社、そして売掛先(債務者)の3者間で行われる取引形態です。この方法では、売掛先にファクタリングの利用を通知し、承諾を得る必要があります。そのため、資金調達までに少し時間がかかることがありますが、手数料は2%から9%程度と比較的低めです。
ファクタリングは、企業が売掛金を早期に現金化できるため、資金繰りを迅速に改善できます。これにより、売掛金の回収まで待つことなく、運転資金を確保できます。
売掛金の回収に時間がかかる場合でも、ファクタリングを利用すればキャッシュフローを安定させることができます。特に季節変動のある業界では大きな利点です。
ファクタリングは借入ではなく、資産(売掛金)の売却による資金調達方法です。そのため、企業の財務諸表上の負債を増やすことなく、資金を調達できます。
前項で挙げたようにファクタリングは融資ではなく売掛債権の売却であるため、企業の信用情報に対して借金として記録されません。つまり与信枠を圧迫することがなく、信用情報への悪影響が少ない点がメリットと言えます。
ファクタリング会社が取引先の信用調査を行うため、自社で信用調査を行う手間やコストを削減できます。
ファクタリングには、手数料や金利が発生します。通常、ファクタリング会社に売掛金の一定割合を支払う必要があるため、資金調達コストが高くなる可能性があります。
売掛金を全額現金化できるわけではなく、ファクタリング会社が手数料を差し引いた金額が支払われます。そのため、売掛金の一部が減額されてしまいます。
通常、ファクタリング会社が売掛金の回収を行うため、取引先がファクタリングの存在を知ることになります。これが顧客との信頼関係に影響を与える可能性があり、特に長期的な取引を重視する場合には注意が必要です。
ファクタリング会社は信用リスクが高い取引先に対してはファクタリングを受け入れないことがあります。これにより、すべての売掛金がファクタリングの対象とならない場合があります。
ファクタリングはあくまで短期的な資金繰りの改善策であり、根本的な経営問題を解決するものではありません。長期的な視点で見た場合、資金繰りの根本改善を図る必要があります。
ファクタリング会社を選ぶ際は、手数料率と審査スピードが最も重要な要素ですが、他にも信頼性やサービスの柔軟性、契約内容の透明性なども考慮すべきです。まずは複数の会社に問い合わせを行い、自社のニーズに合った最適なファクタリングサービスを見つけることが大切です。
ファクタリングの利用には、売掛金の一定割合を手数料として支払う必要があります。手数料率は会社によって異なるため、事前に比較することが重要です。一般的には2%〜10%程度が目安ですが、取引先の信用度や売掛金の金額、契約形態によっても異なります。
ファクタリングは、資金繰りを早急に改善するための手段として利用されることが多いため、審査のスピードが重要です。審査に数日から1週間程度かかることもありますが、即日対応可能な会社も存在します。自社の資金ニーズに合ったスピード感のある会社を選びましょう。
ファクタリング会社が提供するサービスの内容も確認すべきです。たとえば、償還請求権※の有無によってリスクや費用が変わります。また、契約期間や売掛金の最低金額などの条件も会社ごとに異なるため、自社の状況に適した契約形態を提供しているか確認しましょう。
※償還請求権とは、売掛金が回収できなかった場合にファクタリング会社が利用企業に債権の返済を求める権利のこと
ファクタリング会社は取引先の信用調査を行いますが、その調査の深さや方法は会社によって異なります。過度な信用調査が取引先との関係に影響を及ぼす可能性があるため、調査方法やその透明性についても確認することが重要です。
ファクタリング会社の信頼性や実績も選定時に重要な要素です。業界内での評判や長年の運営実績がある会社は、信頼性が高い傾向があります。また、他の企業からの口コミやレビューも参考になります。
ファクタリング契約の内容が柔軟であるかどうかも重要です。たとえば、契約条件の変更が容易か、取引先の追加や売掛金額の調整に柔軟に対応できるかを確認しましょう。自社の成長や変化に対応できる柔軟なファクタリング会社は、長期的に見ても有益です。
契約内容が透明で、隠れた費用や不明瞭な条件がないかを確認することが大切です。特に初めてファクタリングを利用する場合、契約書に記載されている内容をしっかりと理解し、不明な点は事前に確認しておくことが重要です。
サポート体制も選定基準の一つです。契約後のフォローやトラブル時の対応が迅速かどうか、また顧客サポートの質もチェックしましょう。安心して利用できるかどうかが重要です。
企業が商品やサービスを提供した際、通常は取引先に対して請求書を発行します。この請求書が「売掛金」となり、取引先がその支払を行うまで一定の期間(たとえば30日や60日)があります。
売掛金を早期に現金化したい企業は、ファクタリング会社に対してファクタリングの申請を行います。企業は、ファクタリング会社に対して売掛金の明細や取引内容などを提示し、審査を受けます。
ファクタリング会社は、企業および取引先の信用力を審査します。この審査に基づいて、ファクタリング会社は売掛金の買い取り条件(手数料率や現金化額など)を提示します。特 に取引先の信用が重要視されます。
審査が通った後、企業とファクタリング会社の間で契約が締結されます。この契約に基づき、ファクタリング会社は売掛金を買い取ります。
売掛金が買い取られた後、企業は売掛金の一定割合(手数料を差し引いた額)を現金として受け取ります。たとえば、100万円の売掛金に対して10%の手数料がかかる場合、企業は90万円を即座に受け取ることができます。
売掛金の支払期日が到来すると、取引先はファクタリング会社に対して直接支払を行います。ファクタリング会社はこの支払を受けて、契約が完了します。
ファクタリング自体は合法的な資金調達手段ですが、違法になるケースも存在します。適切なファクタリング会社を選ばない場合、違法なスキームや高利貸しのような行為に巻き込まれることもあります。特に以下の点が問題となることが多いです。
法律上、ファクタリングはあくまで売掛金の売買契約であり、貸金業とは異なります。しかし、一部の不正なファクタリング業者は、実質的に貸金業と同様の高金利融資を行うことがあります。これが法律違反となる可能性があります。貸金業法に基づき、貸金業を営むには登録が必要であり、無登録でこれを行うことは違法です。
売掛金を複数のファクタリング会社に二重に譲渡する行為は違法であり、詐欺行為とみなされることがあります。このような行為は企業側の違法行為となり、法的な制裁を受ける可能性があります。
一部の違法なファクタリング業者は、手数料の過度な引き上げや曖昧な契約内容することで企業を搾取するケースがあります。これにより、企業が過大な負担を強いられることがあります。
違法なファクタリング業者に巻き込まれないために、以下の点に注意することが重要です。
日本では、貸金業を行う場合には「貸金業法」に基づく登録が必要です。ファクタリング業者が貸金業者として登録されているかどうかを確認することが重要です。違法業者は無登録で活動している可能性があります。
不明瞭な契約内容や口頭で受けた説明と契約書の内容が異なっている場合は注意が必要です。特に手数料や諸条件曖昧な契約は、違法性を含む可能性があります。契約書の内容をしっかりと確認し、理解できない場合は専門家のアドバイスを求めることが推奨されます。
正常なファクタリングでは、手数料率は一般的に2社間の場合8%から18%、3社間の場合2%から9%程度です。これを大幅に超える手数料を要求する業者は、違法業者である可能性があります。
インターネットや業界の口コミ、評判を確認することで、ファクタリング業者の信頼性を確認できます。過去の利用者の評判が悪い場合、その業者との取引を避けるべきです。
法的な疑念がある場合は、弁護士や専門のファクタリングコンサルタントに相談することが最善です。彼らは契約内容や取引の合法性についてアドバイスを提供できます。
違法なファクタリング業者を利用してしまった場合、まず契約内容を確認し、証拠を確保します。契約書やメール、支払記録を保存し、弁護士や司法書士などの専門家に相談することが重要です。
違法性が疑われる場合は、金融庁や消費生活センター、警察に報告し、業者との交渉を開始します。交渉が難航する場合、法的措置として民事訴訟や仮処分申請を検討しましょう。
監修
税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。