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売掛金とは?間違いやすい勘定科目と仕訳方法をわかりやすく解説
この記事では、企業の資金繰りを把握するうえで重要な指標である売掛金回転期間の意味とその計算方法、経営への活用方法について解説します。
売掛金回転期間は、経営戦略立案やキャッシュフローの管理にも大きな影響を与えます。したがって、企業は売掛金回転期間を常に監視し、適切な対策を講じることが必要です。
目次
売掛金回転期間は、企業が提供した商品やサービスに対する売掛金が現金化されるまでの期間を示す指標です。この期間が短いほど企業は素早く現金を回収できるため、資金繰りが良好であると判断されます。
一方、期間が長いと現金化に時間がかかり、資金繰りが悪化する可能性が高いと判断されます。
具体的な計算法は次項で示しますが、売掛金回転期間は、”売掛金を売上高で割る”ことで算出され、月数や日数で表されます。この指標を適切に管理することで、企業は資金繰りの改善を図ることができます。
※売掛金とは、企業が商品やサービスを提供した際に顧客から支払われるべき金額、すなわち将来的に受け取る権利を指します。これは信用取引における売掛債権であり、受取手形と同様に売上に関連する債権として分類されます。売掛金の詳細はこちらをご確認ください。
売掛金回転期間の計算方法は、売掛金を売上高で割った値で算出されます。この式は、期末の売掛金残高と年間売上高を用いて計算され、月数や日数で表されます。
売掛金回転期間 = 売掛金 ÷ (年間売上高 ÷ 12)
例えば、株式会社A社の期末売掛金が1,500万円、年間売上高が9,000万円の場合、売掛金回転期間は次のようになります。
売掛金回転期間 = 1,500万円 ÷ (9,000万円 ÷ 12) = 2ヶ月
売掛金回転期間の計算には、以下の財務データが必要です。
期末の売掛金残高は、貸借対照表や売掛金台帳などで確認します。
1年間の売上高は、損益計算書などで参照します。
これらのデータは、通常、企業の財務諸表や会計システムから入手することができます。特に、上場企業の場合は、公開している財務諸表から入手可能です。
売掛金回転期間の評価基準は、一般的な評価基準、業種別の評価基準、自社における過去実績との比較などがあります。これらの基準を踏まえ、売掛金回転期間を適切に評価し、資金繰りの改善に役立つ対策を講じることができます。
売掛金回転期間の一般的な評価基準として、以下のような基準が挙げられます。
売掛金回転期間が短いほど、資金繰りがスムーズで、経営が健全であると判断されます。一般的には、現金取引が主体の場合は30日、掛け取引の場合は60日程度が目安とされています。
売掛金回転期間が長期化すると、資金繰りが悪化し、経営が危ぶまれると判断されます。特に、90日以上の売掛金回転期間は、資金繰りの問題が深刻であるとみなされます。
売掛金回転期間の評価基準は、業種によって異なります。以下は、主な業種別の評価基準です。
小売業では、売掛金回転期間が短いほうがよいとされています。30日程度が目安とされています。
卸売業では、売掛金回転期間がやや長くなる場合でも許容されます。60日程度が目安とされています。
製造業では、売掛金回転期間がやや長くなる場合でも許容されます。90日程度が目安とされています。
参考:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings2_201710_04a.pdf
売掛金回転期間を評価する際には、以下のような自社における過去実績との比較も重要です。
現在の売掛金回転期間と過去の売掛金回転期間を比較します。改善が見られれば、資金繰りが良化していることがわかります。
自社が設定した売掛金回転期間の目標値との比較を行います。目標値を超えている場合は、資金繰りが良化していることがわかります。
これらの評価基準を踏まえ、売掛金回転期間を適切に評価し、資金繰りの改善に役立つ対策を講じることができます。
売掛金回転期間が長い場合、資金繰りへの影響、貸し倒れリスクの増大、売掛金管理コストの増加などの問題が生じます。これらの問題は、企業経営のマイナス要因となります。
売掛金回転期間が長い場合、資金繰りに大きな影響を与えます。具体的には、売掛金が回収されないまま長期化すると、企業のキャッシュフローが悪化し、資金繰りが困難になることがあります。これにより、企業は資金不足に陥り、運転資金や設備投資などの借入金を増やすことになります。売掛金の回収が長期化すると、資金繰りが不安定になり企業経営へ悪影響となります。
売掛金回転期間が長い場合、貸し倒れリスクも増大します。売掛金が長期化すると、顧客が支払いを拒否したり、倒産したりする可能性が高まります。この場合、企業は貸し倒れ損失を計上する必要があり、損失額が増加します。貸し倒れリスクの増大は、企業の財務体質を悪化させ、経営の不安定さを招きます。
売掛金回転期間が長い場合、売掛金管理コストも増加します。長期化した売掛金は、請求書の発行や入金管理、未入金時の催促や督促など、多くの業務が必要となります。これらの業務は、人件費やシステム導入費などを含むコストがかかります。売掛金管理コストの増加は、企業の経営効率性を低下させ、利益を圧迫します。
売掛金回転期間を短縮する方法として、与信管理の強化、請求書発行と回収のスピードアップ、売掛金の早期現金化などがあります。これらの方法を適切に実施することで、売掛金回転期間を短縮し、資金繰りの改善を図ることができます。
与信管理の強化は、売掛金回転期間を短縮するための基本的かつ重要な手段です。顧客の信用状況を正確に把握することが、経理業務の質を大きく左右します。具体的には、次の点に注力する必要があります。
新規取引先や既存顧客の信用リスクを定期的に見直すことが重要です。信用リスクが高い顧客に対しては、支払期限の短縮や保証金の設定を検討します。与信管理の強化は、多くの中小企業にとって資金繰りの安定化に不可欠な対策とされています。
顧客の支払状況を常に監視し、遅延が発生した場合には速やかにフォローアップします。これにより、売掛金の滞留を防ぎ、資金繰りの悪化を回避できます。具体的なツールとして、ERPシステムやクレジット管理システムの導入が推奨されます。
与信管理を強化することで、回収リスクを減らし、資金繰りの改善が見込めますが、取引条件を厳しくすることで顧客離れが発生するリスクも存在します。特に、中小企業においては、信用調査のコストが負担になる可能性もあります。バランスを見極めながら実施することが求められます。
請求書発行と回収業務のスピードアップは、売掛金回転期間を短縮するための効果的な手段です。以下の方法を取り入れることで、回収スピードを向上させることができます。
商品やサービスの提供後、可能な限り速やかに請求書を発行します。これにより、顧客に支払いの意識を早期に喚起させることが可能です。電子請求書システムを導入することで、発行から送付までのプロセスを大幅に短縮できます。
請求書には明確な支払期限を記載し、顧客に対して迅速な支払いを促します。特に、期日を過ぎた場合のペナルティについても明記すると効果的です。業種別に支払期限の設定を見直すことも検討する価値があります。例えば、小売業では30日以内、製造業では60日以内が一般的です。
請求書発行と回収の早期化は、売掛金の回収を促進し、安定したキャッシュフローにつながります。ただし、迅速な請求が顧客に圧力を感じさせ、取引関係が悪化するリスクも考慮する必要がありますので、顧客の信用状況に応じた柔軟な対応が求められます。
売掛金の早期現金化も、売掛金回転期間を短縮するための効果的な対策です。
売掛金をファクタリング会社に売却し、即座に現金を得る方法です。これにより、資金調達を迅速に行うことが可能です。
売掛金を担保として金融機関から融資を受ける方法です。ファクタリングと比べて金利が低いケースが多く、大口の売掛金に適しています。
売掛金を電子記録債権化し、金融機関で割引くことで早期に現金化できます。手形と比べて管理が容易で、偽造のリスクも低減できます。
ファクタリングを利用することで、売掛金の回収を待つ必要がなくなり、資金繰りの改善が即座に図れます。しかし、その分、手数料や利子が発生するため、コスト面での負担が増す点には注意が必要です。また、ファクタリング会社との契約条件を十分に理解し、最適な条件で契約を締結することが求められます。
売掛金回転期間は、キャッシュフロー管理、在庫管理、経営戦略立案などに大きな影響を与えます。売掛金回転期間を適切に管理することで、経営を強化し、企業成長を促進することができます。
売掛金回転期間は、キャッシュフロー管理に大きな影響を与えます。売掛金回転期間が短い場合、現金の回収が速まり、キャッシュフローが改善します。逆に、売掛金回転期間が長い場合、現金の回収が遅れ、キャッシュフローが悪化します。
売掛金回転期間を短縮することで、キャッシュフローを改善し、企業の資金繰りを強化することができます。また、売掛金回転期間を監視することで、キャッシュフローの問題を早期に発見し、対策を講じることができます。
売掛金回転期間は、在庫管理とも密接に関連しています。在庫管理が適切でない場合、売掛金回転期間が長くなり、キャッシュフローが悪化します。逆に、在庫管理が適切である場合、売掛金回転期間が短くなり、キャッシュフローが改善します。
売掛金回転期間と在庫管理を連動させて管理することで、キャッシュフローを改善し、企業の資金繰りを強化することができます。
売掛金回転期間は、経営戦略立案にも大きな影響を与えます。売掛金回転期間が短い場合、企業はより速く現金を回収し、投資や新規事業に資金を投入することができます。逆に、売掛金回転期間が長い場合、企業は現金の回収が遅れ、投資や新規事業に資金を投入することが困難になります。
したがって、売掛金回転期間を監視し、適切な対策を講じることで、企業の経営戦略を立てることができます。
最後に、再度売掛金回転期間についておさらいしておきましょう。
以上のような内容を説明してきました。
売掛金回転期間は
など、企業の経営全体に大きな影響を与えます。経営リスクを最低限に抑え、健全な成長をしていくためにも、この機会に、一度社内で管理方法を細かく決めておくのはいかがでしょうか。
監修
税理士 高橋龍二
1957年、山形県尾花沢市生まれ。1982年、税理士試験合格。1987年、税理士登録。2022年、税理士法人伊藤・高橋事務所を開設し、代表社員税理士となる。日本税理士会連合会理事、東北税理士会副会長、東北税理士会山形県支部連合会会長(いずれも2023年7月退任)。多くのクライアントとともに、地方において豊かに暮らしていくことを目指している。